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2023年06月27日

活動報告

「わが国におけるポリヴェーガル理論の臨床応用」に寄稿しました。

岩崎学術出版社から6月末に出版されました、「わが国におけるポリヴェーガル理論の臨床応用ートラウマ臨床をはじめとした実践報告ー」に、NPO法人タッチケア支援センター代表理事の中川れい子による実践報告コラム「妊娠・産後期のタッチケアにおけるポリヴェーガル理論の臨床応用」を投稿させていただきました。

岩崎学術出版のサイトはこちらです。
Amazonは、こちら。

妊娠出産期は、人生における奇跡と祝福であり、至福感や達成感を感じる方も少なくはありませんが、どのような体験であれ母体の身心に激しいストレスをもたらし、状況によっては母子ともに”生と死”にかかわるケースがあります。その、不安・恐れ・苦痛や、複雑な感情がトラウマとして残り、適切なケアがないままでは「産後うつ」へとつながることも懸念されます。

 

こうした中、近年、医療現場では、手足や全身へのオイルトリートメントなどの”触れるケア”を通じて、マタニティや産後の女性へのストレスの緩和をサポートする産科が増えつつあります。

 

このコラムでは、タッチケア支援センターが長年、神戸市の総合病院産科で活動してきました”産後のタッチケア・トリートメント”について、ポリヴェーガル理論を参考にして、交感神経・腹側迷走神経複合体・背側迷走神経複合体について考慮にいれ、そのかかわりについて、記述しています。よろしければ、ぜひ、手にとってお読みください。

日本国内での臨床報告が豊富な、非常に貴重な著書として出版されました。

編者の花丘ちぐさ様、岩崎学術出版様、ありがとうございました。

 

ータッチケアの実践とポリヴェーガル理論ー

~寄稿に寄せて。中川れい子からのメッセージ~

このたびは、貴重な国内の臨床報告に産後のタッチケア・トリートメントを取り上げていただけたこと、心から感謝申し上げます。

タッチケア支援センターでは、「こころにやさしいタッチケア講座」の中級や、「触れるケアの癒し学」でポリヴェーガル理論の解説をクラスで行っています。ただ、もともと私達の実践するタッチケアには、あたたかさ、やわらかさ、笑顔や声かけ、アイコンタクト、傾聴とナラティブ、ゆっくりとした動き、呼吸やグラウンディング、身体感覚の今・ここの気づきなど、腹側迷走神経複合体を活性化する要素が備わっていますので、繊細で気づきある施術者の方はごく自然とポリヴェーガル理論を実践されている場合が多いです。あとは、少し知識と気づきを加えることで、ぐっと施術の質は深まっていくでしょう。
私自身、昨年度から、ポリヴェーガル理論をベースにおいたトラウマ療法である”ソマティック・エクスペリエンシング”の集中講座に参加し、よりトラウマと神経系への理解を深めています。それは、やはり、タッチケアの臨床の現場で、非常に役立つ理論であるからです。特に、つながりや社会的交流をもとにした腹側迷走神経複合体、そして、凍り付きや不動、解離を引き起こす背側迷走神経複合体、さらに深い休息と回復に関係するリラクセーションの仕組みについて、ポリヴェーガル理論は、これからのタッチケアの施術教育に、不可欠だと考えています。
臨床におけるタッチケアで、特にポリヴェーガル理論が役立つと思うのは、やはり今回のコラムのテーマである、出産という命の危機に瀕する体験を乗り越えていく産前・産後の女性へのタッチケア・トリートメントだと思います。なので、今回、よくぞご依頼くださったと膝をうちます。
他に、特にポリヴェーガル理論の知識がより必要だと考えられるのは、当然ながら被災地でのタッチケアの活動でしょう。東日本大震災以来、長い間活動していませんが、ここはあらためて整理してみようと思います(足湯とハンドトリートメントと傾聴の組み合わせが、絶妙であったとあらためて実感)
また、がん患者さんへのタッチケア(オンコロジータッチセラピー)も、がんの告知や過酷な治療、副作用や後遺症、そして死の恐怖を体験されている方が多いので、こうした神経系の理解がより必要だと思います。
あと、不安感が強い認知症の方や、脳卒中や外傷性障害による後遺障害の方へのタッチケア(ニューロ・タッチセラピー)にも適応したほうがいいので、高齢者の方へのタッチケアにも関係してきます。
もちろん、うつ・発達障害・統合失調症・依存症などのメンタルの問題を抱える方へのセルフタッチング、タッチケアにも、当然ながら関係してくるでしょう。グリーフケアももちろんかかわってきます。。
ポリヴェーガル理論そのものが、癒しやケアをもたらすわけではありませんが、理論を理解することで、今、何が起きているのかについてプラクティショナーがより落ち着き、グラウンディングして対応することができます。タッチケアはトラウマセラピーではありませんが、予防と緩和、危険回避には結果的にかかわり、それがクライアントさんにとって大きな寄り添いと支えになっていくのでしょうし、必要に応じて専門家の方へとつなげていくこともできます。(そういう意味では、今回、この本を通じて国内での臨床家の先生方とのネットワークができるのは、ありがたいことです)
私としては、これを機会に、タッチケアやボディトリートメントの実践における、ポリヴェーガル理論の臨床応用を振り返り、できれば、いろいろな方とわかちあいながら探求し、整理していきたいと願っています。
そう考えると、これはほんとうに貴重な機会となりました。
あらためて、感謝でいっぱいです。
ほんとうに、臨床に役立つ内容ですので、
多くの方に、読んでいただきたいと思います。
日本国内で、まだ10数年でありながら、すでにこれだけ進んでいることにも感動します。これまでの皆様の探求と努力に感謝です。
2023年6月27日 東京にて
NPO法人タッチケア支援センター
中川れい子