代表 ご挨拶
NPO法人タッチケア支援センター
設立の経緯と歩み

代表 ご挨拶
“NPO法人タッチケア支援センター、設立の経緯と歩み”

阪神淡路大震災での被災体験

私が「触れるケア」を学び、実践しようと志したのは、1997年の秋のことでした。それは、1995年の阪神淡路大震災で西宮の自宅が被災し、当時予備校講師だった私は、友人のつながりを得て、避難所・仮設住宅等でボランティア活動にかかわり、そして2年がたった頃。

「ボランティア元年」とよばれたあの時期。誰も彼もが、心も体もずたずたに疲れ果てていました。復興には時間と忍耐と体力が必要です。傷ついた心と身体を癒すのに、何が出来るだろうか?と自分自身に問いかけたとき、ふっと心の中に浮かんだのが、“触れること”の癒し、あるいは、身体を通じての癒しだったのです。

ボディワークの施術を通じて

「そうだ、触れることを学ぼう!」と思った瞬間、すぐに道は開かれていきました。その後、良き師にも巡り合い、ボディワークやボディサイコセラピー、ヒーリングやカウンセリング等を学びました。

そして、1999年、エサレン®ボディワークと出会い認定資格を取得。施術者として活動を始めました。これは、ヒューマン・ポテンシャル運動(人間性回復運動)で有名な米国カリフォルニア州エサレン研究所で開発された全身のオイルトリートメントで、心と身体をホリスティック(全体的)にとらえ、ゆったりとした波のリズムで、「今・ここ」の気づきと、一方的にならない、非侵襲的で穏やかな施術法が特徴です。

ゆったりとしたストロークによる皮膚への優しい刺激は非常に心地良く、リラクセーション効果は絶大です。当時はまだあまりこうした全身のトリートメントのサロンが少なかったせいか、とてもよくお客様が来てくださり、大勢の方に施術をさせていただきました。

やさしいタッチの効果の確信

10年近くひたすらに施術を重ねていく中、やさしく触れることが人々の心と身体、時には人生や生き方にまで深い影響を与えていくことを、幾度も目の当たりにしました。こうした施術を通じての交流を、家族間でのケアや、医療や看護の現場に形を変えて伝えていけないだろうか?と思い至りました。

そんなころ、大学の研究者の先生方とも出会い、施術を受けた方の生理反応の変化や、主観的心理テスト等、いくつかの実験を行うことができ、私の実感は、確信へと変わっていきました。

思いやりや慈しみ、気づきをともなう、こころとからだに優しい“触れるケア(タッチケア)”は、皮膚からの刺激が末梢神経から中枢神経、そして脳内に働きかけて深いリラクセーションを届け、自律神経系や内分泌系、免疫系に有効に作用すること(身体的効果)。

そして、不安や怖れ、孤独感・ストレス・脳疲労・そして痛みを軽減することや、触れられることで身体感覚の気づきに作用し、自己尊重感・肯定感が深めること(心理的効果)。さらに、他者への思いやりの心や信頼関係を育む(社会的効果)等、これまで、体験的に施術を通じて感じてきたことに確信をもち、これを安全にお伝えしていきたいという思いに至りました。

現代社会のタッチレスの諸問題

NPO法人を立ち上げた理由は、もうひとつあります。それは、周囲に触れることが苦手な方、あるいはご家族や友人で触れることが苦手な方が増え始めたのに気付いたことです。21世紀以降社会の情報技術の飛躍的な進化によって、その傾向は顕著になっていきました。他にも、ゲーム機器の隆盛、バーチャルリアリティ等メディア文化の進化・スマホやSNS、ロボット産業やAI等の科学技術、医療技術の高度化、不妊治療、体外受精技術の普及、等等。。。そして、核家族化のさらなる進行。21世紀以降の科学技術と社会形態の大きな変化は、人が人を“生命の温かみある存在”として直接的に触れて実感する機会を、遠ざけていっているようだったのです。

触れ合うことの体験そのものが減少すると、必然的に「触れる・触れられる」ことにまつわる様々な不安や葛藤・混乱が広がります。触れられるのが怖い、子供にどのように触れたら良いのかわからない、触れられないことからくる精神的飢餓感(スキンハンガー・愛着障害)、タッチレスやネグレクト、少子化等の諸問題と密接に関係しながら、家族関係や社会に少なからぬ闇を落とし始めています。また、身体感覚そのものが低下や、不適切なタッチ体験(虐待・DV・セクハラなど)によるトラウマの問題もあります。こうしたことは、タッチへの正しい理解と教育の不足という面からも捉えることができます。

2011年に設立。最初の活動は東日本大震災の被災地

このような時代背景から、タッチの身体的・心理的・社会的・倫理的側面などを多角的に検討し、これら諸問題を広く社会に問いかけ、正しい知識と認識に基づくタッチケアの教育・普及の必要性を感じ、NPO法人の設立の準備を始め、2011年2月、兵庫県に特定非営利活動法人の設立を申請しました。ところが、5月に認可が下りるその前に、3月11日。東日本大震災が起きたのです。

阪神淡路大震災を体験した私にとっては、いてもたってもいられません。
とはいえ、すぐに被災地に行くことは不可能でした。そこで、東日本大震災の被災地での、親御さんたちが、子どもたちに触れたり、抱きしめたりすることで、心のケアができることを、小冊子の形でお伝えしようと思い立ち、小冊子「こころにやさしいタッチケアーストレスの緩和と、PTSDの予防のための、タッチケア&スキンシップ・ガイド“を1か月半ぐらいの猛スピードで仕上げて、5月末から東北の被災地に無料で届けることができました。

そして、5月の初旬には、岩手県大槌町と宮城県七ヶ浜の避難所で最初のタッチケア・ボランティア活動が始まりました。くしくも、私達の最初の活動は、東日本大震災の被災地となったのです。この活動の間に、次第に、私達の対人援助のためのタッチケアのスタイルが調っていきました。この時の冊子のタイトルが、現在の私達の講座名「こころにやさしいタッチケアー家族間ケア・看護・介護等、対人援助のためのタッチケア」へと成長していきました。

地域に伝えるタッチケアの癒し

その後、東北の被災地は遠方であることから、次第に、地域の高齢者施設や、地域支援センター、がん患者会等での活動が中心となりました。現在でも、実践経験を増やし、そして、海外講師を招いたりしながら、より安全で効果的なタッチケアの普及・教育に尽力しております。

親子や夫婦の家族間ケア、あるいは、医療・福祉・教育などの対人援助の現場で、こころとからだに優しく、人間愛と気づきに基づいたタッチケアを求める声は高く、これまでにも迅速で幅広い普及が望まれてきました。適切なタッチケアの探求とタッチ教育の普及は、社会の成熟にむけて常に補完的な意義をもつと言えるでしょう。

海外講師の招聘~より安全で気づきあるタッチケアを~

さらに2015年より、米国ホスピタルベイスド(医療環境下)マッサージの指導教官である、キャロリン・ターグ先生を米国サンフランシスコからお招きして、がんの治療中の方へのタッチセラピーである「オンコロジー・タッチセラピー講座」を開講し、大勢の日本人受講生の方にご案内することができました。

キャロリン・ターグ先生からは、喪失とグリーフケアとしてのタッチセラピー(Touch and Loss)や、脳卒中や外傷性脳障害で後遺症をお持ちの方へのタッチセラピー等の講習も開講していただきました。

また、米国のローゼン・メソッド・ボディワークの開講(ジュディス・ウィーバー先生)や、私のエサレン®ボディワークの長年の師匠である、シャー・ピアス先生のクラスも何度も開講することができ、より安全で、気づきあるクオリティの高いタッチと術の質を受け取りながら、「こころにやさしいタッチケア」は成長していきました。

コロナの時代を経て、タッチケアの未来

こうして、2020年に至るまで、より安全で効果的な、高齢者・医療環境下でのタッチケアの施術法を成熟させ、人々の心とからだに優しい、気づきあるタッチケアを、講座や体験ワークショップ、講演等を通して、普及・教育に励んでおります。また、被災地・高齢者施設・産科病棟・緩和ケア病棟・がん患者会等での施術活動や、ボランティア活動を展開し、地域社会に癒しとケアを届ける活動を続けてきました。(新型コロナウイルス(COVIT19)問題のため、一部活動は休止中です)

また、触れられることが苦手な方への心のケアの取り組みや、ADHD/自閉症アスペルガーの方の地域活動支援センターや、うつの回復期の方の就労支援センター等では自分自身で自分にふれるセルフケア“セルフタッチング”のワークショップもお伝えしています。

こうしたタッチケアを伝える事業を通じて、人々の心身の健康と幸福を増進するとともに、生命のあたたかみの実感と人権尊重、相互理解の精神を育成し、家庭生活の安定、そして、平和を礎とする未来社会の建設に寄与していきたいと考えます。
今後共、皆様のご支援・ご協力のほど、よろしくお願い申し上げます。

NPO法人タッチケア支援センター 理事長
中川れい子 プロフィール

1963年兵庫県生まれ。関西学院大学文学部を卒業。塾・予備校講師(主に大学受験「日本史」を担当)を勤める。1995年の阪神淡路大震災で被災後、現地ボランティアとして活動する中、からだを通じての心のケアの大切さを痛感し、1998年よりボディワーク、ボディサイコセラピー、カウンセリング、ヒーリング等を学び始める。1999年にエサレン®ボディワークと出会い、自宅サロンで開業、個人セッションをひたすらに積み重ねる中、触れることの様々な作用を実感。その普及・教育・ボランティア団体として、「やさしくふれると世界はかわる」をテーマに2011年NPO法人タッチケア支援センターを設立。ソマティクス(身体感覚の気づきにかかわるワーク)を重視した、安全で心地よく、対人援助に役立つ「こころにやさしいタッチケア講座」を開講。高齢者施設・がん患者会・緩和ケア病棟・産科等での施術会や、発達障害・精神障害の方の地域活動支援センター、うつの方の就労支援センター、疼痛患者の会や、依存症の会など、様々なフィールドで、セルフケアやタッチケアの指導にあたる。また、個人サロン、amana spaceでのエサレン®ボディワーク等の個人セッションも、引き続き行う。オーガナイズとしては、エサレン®ボディワークの認定コースを含めての各種ワークショップ主催、米国ホスピタルベイスドマッサージ公認講師、キャロリン・ターグ氏を招いてのオンコロジータッチセラピー講座、グリーフケアのためのタッチセラピー等の講座をオーガナイズする。<身(み)>の医療研究会理事、NPO法人はち理事、こころとからだのセラピールーム amana space 代表