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2021年03月14日

活動報告

3/6 フォーラム 藤本靖先生のご講演レポート

3月6日第六回タッチケアフォーラム
身の医療研究会 講演報告
(フォーラムの運営スタッフとしてお手伝いくださいました川上陽子さんがレポートを書いてくださいました。ありがとうございました。NPO法人タッチケア支援センター)

“神経の仕組み”から考える
テレワーク時代のセルフマネジメント

藤本靖先生のご講演レポート

環境神経学研究所(株)の藤本靖氏は、「”神経の仕組み”から考えるテレワーク時代のセルフマネジメント」と題し、ボディワークの視点から、”ふれる”こと ”さわる”ことへの考察がなされ、両者をより意識した上でのワークの実践をおこなった。

 冒頭では、長時間にわたるフォーラムのリフレッシュもかねて、「あくびワーク」を体験した。あくびをしながら伸びをすることで、呼吸と姿勢を司る横隔膜と大腰筋をゆるませた。

(レポート:川上陽子)

1 伊藤亜紗先生「”ふれる”と”さわる”」

昨年10月に出版された伊藤亜紗氏の著書『手の倫理』を取り上げながら、ボディワークの視点から、”ふれる”と”さわる”ことへの考察を繰り広げた。

 

<介入していることに自覚的になることが大切である>

意図をもって働きかけをする、”ふれる”行為そのものが介入性を孕んでいる。ただ、ゆるめてあげようと優しくタッチした場合、介入であるが侵襲ではない。侵襲性には、身体を痛めるような、より強いダメージや影響力がある。非介入性は、非侵襲性とイコールとは限らないのだ。介入していること自体は必ずしも悪いことではないが、そのことに自覚的であることが大事。

 

<”ふれる”と非介入性の関係について>

手技療法の3つのアプローチ、1. 直接法 2. 間接法 3. バランス法 を挙げ、中でも、3. バランス法に着目する。これは、自己調整力という生命が持つ内発的な力を引き出す方法である。バランス法では、非介入性が重要なポイントとなる。

 

<自己調整力を引き出す、”ゆだねる”感覚>

”ゆだねる”ことは、生命の原点である、と胎生学の観点から定義づける。胎児は、母体の中で絨毛膜(じゅうもうまく)という受け皿に身をゆだねている。この構造は、受精卵からできた構造であり、自分の構造なのだ。つまり、母体に身をゆだねているわけではなく、まずは自分に対して自分自身をゆだねているのである。

 

<”ゆだねる”タッチとは>

相手が、相手自身に対して”ゆだねる”ことができるような非介入的コンタクトのことである。相手の周囲の空間や領域も含めてコンタクトし、受け入れることが大切であり、何も考えずに手を置くことは、絨毛膜の存在を無視しているため、介入といえる。

”ふれる”際、我々はどうしても治したいなどと働きかけたくなってしまうが、自己調整力の観点から考えると、相手の可能性を閉じ込めてしまうことにつながる。

 

2 “ふれる”でボディワーク 

これまで多くのメディアや講演、企業研修等で紹介されているセルフケアのワークを、”ふれる”ことの奥深さを理解した上で各自おこなった。

 

<進化した”わりばし”ワーク>

わりばしの代わりに中指を用いる新たな試み。指の中に心があるというイメージを持ち、奥歯でゆっくりそれに触れるというワークをおこなった。

 

<副鼻腔呼吸のワーク>

手のひらを顔に向け、中指を目頭の少し上に、親指をこめかみに、薬指と小指を頬骨の上下に添えるように置いて呼吸をおこなう。副鼻腔は、三叉神経支配であり、覚醒および自律神経の調整への影響が強い部分である。

 

<耳ひっぱりのワーク>

中指と親指で耳の付け根をつまむようにして、目の高さの遠くを見る。五感すべてを統合する部分である蝶形骨周辺をゆるめることができる。

 

<うがいのワーク>

喉全領域に水を注ぐイメージでうがいをおこなう。喉の詰まりや顔の緊張が解消されていく。

 

3 ”ふれる”のもう一つの要素

伊藤亜紗著『記憶する体』を取り上げながら、”耳”、中でも内耳神経の平衡神経にフォーカスを当て、”ふれる”には平衡感覚が重要な役割を果たしている、と持論を展開された。

 

<耳をすませることは、”ふれる”ために重要な要素>

我々は、耳で振動を受け取る。例えば、伝統文化の「聞香(もんこう)」では、嗅覚のみに頼らずお香を味わう。”きく”ことは、ほかのモダリティと結びつけられる。

耳をすませると、相手の中にあるバイブレーションが自分の中に伝わり、外側と内側の揺れの共鳴が起こる。耳は、内受容感覚と外受容感覚をつなぐキーであり、平衡感覚の共鳴は、自律神経の共鳴への架け橋になっている可能性がある。

 

<横揺れの効果>

平衡感覚への働きかけとして、我々が具体的にすぐに実践できることに、横揺れが挙げられる。左右交互に刺激を入れる「両側性交互刺激」は、より水平感覚(平衡感覚)にアプローチすることができると考えられる。

「乙武プロジェクト」で義足歩行に挑戦している乙武洋匡氏によると、前に進もうとするのではなく、横に揺れることで歩きやすくなったとのこと、これは平衡感覚の刺激が歩行のセントラルパターンジェネレーター(CPG)を活性化した可能性を示唆するものである。

ビジネスマンを対象としたヘルスツーリズム事業においても、平衡感覚への刺激の多いラフティングやエアーボードが、自律神経系を調整する高い効果を持つことが実証されている。

 

最後に…

”ふれる”ワークの中で何度も繰り返されていた「身体は、何をしたがっているのか」「身体がやりたいことを自由にさせてあげましょう」という問いかけの言葉。

これらは、「身体性」の考え方にも通ずる。外からの情報に対して、どのように感じ、どのように反応するのか。それは、意思をもってコントロールすることとは異なる。

”ゆだねる”ことを尊重し、耳を傾けながら”ふれる”ことは、他者との出逢い方や、自他ともに可能性を広げることへの新たな視点を与えてくれた。

 

 

報告: 川上陽子(トレーナー)